HOME感染症の学び舎 > 第5回:鳥インフルエンザについて

感染症情報

感染と予防Webでは、【感染症の学び舎】と題し、マンスリーにて感染症情報をお届けします。
季節(時候)・自治をはじめ、読者の皆様が今もっとも注目する【1つの感染症】をクローズアップし、 その感染症情報と正しい予防知識を専門家の見地より、中野Drに分かりやすくご執筆いただきます。

第5回:鳥インフルエンザについて

鳥インフルエンザの脅威

3月になり、わが国ではインフルエンザ流行がピークをむかえています。最近世界で話題となっているのは、人間のインフルエンザ以外に鳥インフルエンザ、特にH5型の高病原性鳥インフルエンザです。現在、中国、タイ、ベトナム、インドネシア等の東南アジア諸国から欧州、アフリカまで広い地域で、家禽や野鳥に大流行しています(図1)。日本でも宮崎県や岡山県の養鶏場で感染が確認され、大きな経済的打撃をもたらしました。鶏肉や鶏卵を食べて、人が鳥インフルエンザウイルスに感染することは世界的に報告されていませんが、感染した鳥やその排泄物等との接触によるヒトへの感染が公衆衛生上の問題となっています。

世界保健機関(WHO:World Health Organization)の報告では、2月19日現在、11ヶ国で274人に感染、167人の死者がでています(図1)。過去3年間の疫学調査結果によると、ヒトへの感染には毎年ピークがあり、それは北半球での冬から春にかけての時期と一致します(図2)。実際、2007年に入ってからインドネシアで6人、エジプトで4人が発症、またサハラ砂漠以南のアフリカで初めての死者が報告され、これから更に感染者が増えることが危惧されます。

図1:高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)の流行状況
図2:高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)のヒトへの感染

「ウイルス変異」の恐怖

鳥インフルエンザウイルスは、まれに鳥からヒトに感染することがあっても、ヒトからヒトへの伝播は通常は起こらないとされています。しかし、ウイルスはすぐに形を変えていきます。鳥の間で流行しているウイルスが、ヒトからヒトへと感染できる新型ウイルスにいつ変異するかは分かりません。図1が示すように、ウイルスの感染が広域化・長期化しているため突然変異の危険性が高まっています。もし新型ウイルスが生まれたら、誰もそのウイルスに対する免疫を持っていないので、世界規模の大流行となる恐れがあります。実際、1918〜19年にかけて世界中で数千万人の死者を出したスペイン風邪のように、新型ウイルスの出現はそれだけでも大きな脅威です。それに加えて、現在報告されているH5型ウイルスの致死率は60%、このままの病原性でヒトに入り込んだら、凄まじい数の死者が出ると懸念されます。またスペイン風邪流行当時に比べて、現代は地域・国際間の交流がはるかに活発となっています。出現した新型ウイルスは、人々と物の移動に伴って世界中に瞬く間に広がるでしょう。

新型インフルエンザの流行を防ぐには?

WHOやその他国際機関、各国政府は、新型インフルエンザへの対抗策を日夜考えています。まず、鳥の間の感染を抑えることです。有効な方法は、発生地点の5〜10km範囲のニワトリ等を直ちに殺処分することです。日本でも高病原性鳥インフルエンザは家畜伝染病予防法に基づく家畜伝染病の一つに指定されており、感染が確認され次第、殺処分されることとなっています。アジア諸国など経済を養鶏に大きく依存する国々では、殺処分による経済負担の大きさも問題となっています。この点についても、国際支援・協力が求められます。

ヒトへの感染は、注意深く監視する必要があります。日本では2006年から高病原性鳥インフルエンザは第4類感染症に指定され、患者報告が義務付けられました。またWHOは常に世界の発生状況を提供し、各国の関係者に注意を呼びかけています。

予防のための最も効果的な手段はワクチンですが、新型インフルエンザウイルス用ワクチンはまだありません。そのウイルスが発生しないと製造することができないからです。しかし日本や欧米諸国では、これまでにヒトに感染した鳥インフルエンザウイルスを元にワクチン開発を進めています。わが国でも、すでに臨床試験が行われました。ただし、実際に新型ウイルスが発生した時、そのワクチンに効果があるかどうかは、まだわかりません。新型ウイルスに対するワクチンを製造するには、流行が始まってから半年以上はかかるといわれます。このことからも、日常から「手洗い」や「うがい」で普遍的予防の習慣をつけておくことは大切です。

では、薬剤はどうでしょう。A型やB型インフルエンザに効果のある「タミフルR」などの抗インフルエンザウイルス薬は、H5ウイルスにも有効であろうと考えられています。いま世界各国が、新型インフルエンザの流行に備えて、抗インフルエンザウイルス薬の備蓄を急いでいます。日本も約2500万人分の備蓄を開始しました。

2002年から2003年、SARS(重症急性呼吸器症候群)の世界流行を憶えている方は多いでしょう。SARSも動物由来のウイルスがヒトに感染し、変異によりヒトからヒトへ感染するようになり、世界に広がったのではと言われています。私たち人類は、幸いSARSの封じ込めに成功し、その後患者発生は報告されていません。このときの教訓を生かして、新型インフルエンザのパンデミーを防止、また万が一発生した場合はその対処策を講じるための備えができるよう、日常から努力を怠らないことが大切です。