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感染症情報

感染と予防Webでは、【感染症の学び舎】と題し、マンスリーにて感染症情報をお届けします。
季節(時候)・自治をはじめ、読者の皆様が今もっとも注目する【1つの感染症】をクローズアップし、 その感染症情報と正しい予防知識を専門家の見地より、中野Drに分かりやすくご執筆いただきます。

第3回:感染性胃腸炎ついて

皆様、新年明けましておめでとうございます。
昨年末からわが国は、ノロウイルス胃腸炎流行の話題で持ちきりです。この病気の症状や病原体についての説明、手洗いや汚物処理の注意点、日常生活における予防の大切さについては、すでにいろんなところで聞いたり読んだりされていることでしょう。感染と予防Webでも、詳しく解説されています。本稿では、もし胃腸炎に罹ってしまった場合、つまり下痢や吐き気で困った時の対処法について紹介します。ノロウイルスだけでなく、他の原因による感染性胃腸炎にも当てはまるお話です。

何も食べたり飲んだりしない方が早く治るのですか?

そうとは限りません。日常の食事や水分摂取に気を配ることの方が、薬や点滴より効果がある場合もしばしばです。

少しお腹の調子が悪いと、食事はもちろん水分を摂ることも止めて一切何も口にせず、下痢が治るのを待つという方がいらっしゃいます。何も飲食しなければ、胃腸は消化や吸収という毎日の仕事から解放されてよく休まり、治りが早いと思われるのかもしれません。しかし、これは必ずしも正しい方法ではないのです。その第一の理由として、私たちは水分、糖分や塩分を全く摂取しないと直ぐに脱水状態に陥ってしまいます。もともと胃腸炎とは、「食欲がなくて食べたり飲んだりする量が少ない」「嘔吐や下痢で身体から水分や電解質が失われている」という状態です。そこへ、外部からの水分や電解質供給を断ち切ってしまうと、脱水の進行に拍車をかけることになります。もちろん、吐き気や腹痛が強い時には無理して飲食をする必要はありません。せっかく飲んでも吐いてしまうなら、その時には一緒に大量の胃液も吐いてしまうわけですから余分に水分や電解質を失うことになります。しかし、ジュースはダメでもお茶やスポーツドリンクなら飲めることがあります。ただし、スポーツドリンクは点滴液と比べて電解質含量は少なく糖分は多く、決して点滴の代用になるものではありません。スポーツドリンクばかり大量に飲めば良いというものではありませんから、ちょっとご注意を・・・。 “経口補液療法(Oral Rehydration Therapy, ORT)”“経口補水塩(Oral Rehydration Salts, ORS)”などのキーワードで検索すれば、詳しい解説をご覧になれると思います。食事については、油っぽいものや消化されにくいものは無理でも、お粥と梅干やスープなら少しずつ食べることができるかもしれません。飲食を完全に絶ってしまうのではなく、その時の症状に応じたお腹に優しい食事療法で対処していただくことをお奨めします。

  • *経口補液療法(Oral Rehydration Therapy, ORT)
    • 下痢や嘔吐により引き起こされた脱水に対する治療法であり、1940年代頃に開発途上国でコレラに対する治療として始められたといわれる。
    • 水に塩分、糖分を一定の割合で溶かした溶液を飲み脱水の治療を行うが、1975年にWHOとUNICEFは統一した組成の経口補水塩(Oral Rehydration Salts ORS)を奨励することに決めた。
    • いわゆるスポーツドリンクは、ORSに比べて糖分が多く電解質が少ない。ジュースやコーラは、その程度がさらに著明である。
    • 日本ならお粥と梅干、さらには各国の伝統的食事療法は、ちょっと組成を加えればORTに準じた効果を期待できる可能性がある。
表.各種飲料や食事の成分組成
(参考資料:国際保健医療学会編、国際保健医療学第2版。196頁.杏林書院)
  ナトリウム(mmol/L) カリウム(mmol/Ll) 糖分(g/L)
WHO /UNICEFによるORS 60-90 20 20
スポーツドリンク(米国) 20 3 45
コーラ(米国) 2 0.1 50-150
重湯 51 2 0.4
ガーナの伝統食 10 20 2

医学的にも、中等症以上の胃腸炎治療における絶食期間(食事を食べさせない期間)の考え方は、時代とともに変遷しています。私が医師になったばかりの二十数年前は、下痢がひどい場合には点滴をしながら1-2日は絶食にするよう指導する先輩医師が多く居ました。一方、あまり長期に腸を休ませることは、かえって消化吸収機能の回復を遅らせるとも言われます。昨今は後者の意見が主流で、胃腸炎で入院して点滴をする子どもたちも、半日くらいしたらお粥や軟らかい副食で食事を開始する場合が多いです。

胃腸炎になったら、少しでも早く病院を受診した方が良いですか?

通常の胃腸炎であれば、カゼと同様で特効薬はありません。治るまでには一定の日数が必要です。安静と食事療法のみで十分な場合もあります。ただし、合併症や重症化が疑われる場合には、早めの受診をお勧めします。

お子様が1回嘔吐をしただけで、脱水が心配になって病院へみえる方もいらっしゃいますが、数回の嘔吐くらいではそんなに簡単に脱水はすすみません。けど、症状が現れて直ぐに病院へお越しいただく患者さん、特にお子様をお持ちの親御さんたちのお気持ちはよく理解できます。なぜなら、胃腸炎発症の初期(これは嘔吐で始まることも多いですが、腹痛のこともあります)は顔色が悪く、周りから見てとても重病のように見えることがしばしばあるからです。大人の方も、ご自分が胃腸炎に罹った時の事を思い出してください。吐く前にお腹に何かが溜まっていてこみ上げて来そうなあの何ともいえない気分、ひどい下痢が始まる前のお腹の中で何かがごろごろトグロを巻いて動いているような不快感、を経験した方はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?子どもたちも、胃腸炎の病初期には同じ不快感を味わっているのです。

医者がこんなこと申し上げたら叱られるかもしれませんが、私たちが一般的によく罹る疾患は、一刻も早く入院治療をすれば早く治るというわけではないものも多いです。胃腸炎に限らずカゼでもそうですが、病原体が侵入することにより各種症状が出現します。しかしこの時期は、私たちが身体に備わった免疫の力で一生懸命病原体と戦っている時期でもあるのです。それを経て、病原体を打ち負かし回復期になるのです。病気治療の基本として、身体が治る方向へ向くことを助けてあげることが一番大切です。先に述べた、胃腸炎罹患時の水分や電解質、さらには栄養の補給は、理にかなった自然体の治療です。

では、どんなときに重症や合併症を疑い、一刻も早く病院を受診しなければならないのでしょう?胃腸炎に限らず、病気重症化のサインはある程度共通しています。医療施設が十分整っていない途上国でWHOが推奨する小児疾患統合管理のIMCI(Integrated Management of Childhood Illness)プログラムにおける“重症化や合併症を疑わせる危険な徴候(Dander signs)”を列挙してきます。これに加えて、高齢者の方や何か基礎疾患があって、体力が衰えていたり吐物を誤嚥して窒息してしまう可能性がある方が罹患した場合には、より注意が必要です。

  • 表.小児疾患統合管理(Integrated management of Childhood Illness, IMCI)における重症化や合併症を疑わせる危険な徴候(Dander signs)〜WHO資料より
    • 持続する嘔吐(いつまでも吐き気が続く)
    • 経口摂取不能(口から食事が摂れない)
    • 意識障害(呼びかけに応えずボヤーとしていたり、逆に過度に興奮している)
    • けいれん発作(手足や身体が硬くなったり、ガクガク震える)