感染症の“今”を語る~Dr.濱田カフェ~
国内~海外の感染症の“今”を濱田先生の目線でお届けする時事コラムです!
1981年東京慈恵会医科大学卒業後、84年米国より留学し、熱帯医学、旅行医学を修得。帰国後、東京慈恵会医科大学熱帯医学教室講師を経て、2004年より、独)海外勤務健康管理センター所長代理として、海外渡航者の診療にあたるとともに、SARSなど海外感染症対策事業を運営。2010年7月より現職。ほかに、日本渡航医学会理事長、日本臨床寄生虫学会理事、著書に『旅と病の三千年史』(文春新書)、「世界一病気に狙われている日本人」「新型インフルエンザ『かかる前に』『かかってから』(講談社α新書)など多数。
森高千里のヒット曲として知られる「渡良瀬橋」。
この橋は栃木県足利市の渡良瀬川に実在する。1980年代後半、森高が足利工大の学園祭に出演した帰り道、この橋の近くを通った。その時の思い出を彼女自身が作詞したそうだ。
この町に住む女性の悲恋を情感こめて歌う彼女の姿は、それまでのアイドル路線から脱皮した歌手・森高千里の登場を感じさせた。
この歌を聞きながら、私は次のフレーズがとても気になった。
それは、別れた男性との思い出を追って渡良瀬川の河原におりたら、風邪をひいてしまったというくだり。
「風邪をひいちゃいました・・」と歌う彼女の鼻声に、当時、若手医師だった私は「その風邪を治してあげないと・・」と真剣に思ったものだ。
この歌の中で、彼女は風邪をひいた理由を「北風がとても冷たくて」としているが、これは医学的に正しくない。北風でノドを冷やすことは風邪の誘引にはなるものの、本当の原因は病原体である。
風邪症候群と呼ばれる病気が毎年、秋から冬にかけて流行する。この病原体としてインフルエンザウイルスがまず思い浮かぶが、それよりもライノウイルスやコロナウイルスなどが頻度としては高い。とくにライノウイルスはいわゆる鼻かぜの原因として最も多いもので、流行する季節も秋から冬への移行期。まさに河原で北風が吹き始める時期に増えてくる。症状は鼻水やノドの痛み程度で、通常は2~3日で自然に回復する。ウイルス以外にも細菌(溶連菌、肺炎球菌)やマイコプラズマが原因になることがあるが、この場合は抗菌薬による治療が必要になる。
森高の歌から察するに、この歌の主人公がひいた風邪の症状は軽いようだ。また季節も秋から冬に移行する時期だから、多分、風邪の原因はライノウイルスなのだろう。
こうした患者さんが外来にこられたら、私は「すぐに回復するから心配いりませんよ。安静にして無理をしないでください」と言って、総合感冒薬を処方する。さらに、「彼のことは忘れて元気になりましょう」などと余計なことも言ってしまうだろう。
では、予防はどうするか。風邪症候群の病原体は飛沫感染で拡大する。患者の鼻水や咳などの飛沫が机やドアノブを汚染し、それを健康な人が手で自分の鼻や口に運ぶ。そういう感染経路だ。だから、予防には手洗いと環境の消毒が最も効果的なのである。
たとえ渡良瀬橋の森高から「風邪をひいちゃいました・・」と連絡がきても、その風邪にかかりたくなければ、すぐには会わない方がいい。もし、すぐに会いたいのなら、その後は念入りに手洗いをすることだ。