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感染症専門家コラム
Dr.濱田コラム

感染症の“今”を語る~Dr.濱田カフェ~

国内~海外の感染症の“今”を濱田先生の目線でお届けする時事コラムです!

氏名:
濱田 篤郎 氏
現職:
東京医科大学病院 渡航者医療センター 教授

1981年東京慈恵会医科大学卒業後、84年米国より留学し、熱帯医学、旅行医学を修得。帰国後、東京慈恵会医科大学熱帯医学教室講師を経て、2004年より、独)海外勤務健康管理センター所長代理として、海外渡航者の診療にあたるとともに、SARSなど海外感染症対策事業を運営。2010年7月より現職。ほかに、日本渡航医学会理事長、日本臨床寄生虫学会理事、著書に『旅と病の三千年史』(文春新書)、「世界一病気に狙われている日本人」「新型インフルエンザ『かかる前に』『かかってから』(講談社α新書)など多数。

第18回:マラリアワクチンという「救世主」降臨

2011年10月18日、米国・シアトルで開催されたビル・ゲイツ財団のマラリア・フォーラムで画期的な報告があった。製薬メーカーのGSK社が開発中だったマラリアワクチンがアフリカでの臨床試験を終え、その有効性が証明されたというのだ。

マラリアは蚊に媒介される熱性疾患で、その患者数は年間2億1600万人、死亡者数は65万人に達している(WHO 2011年12月)。こうした患者の80%以上はアフリカで発生しており、この地域に暮らす人々にとっては最大級の健康上の脅威と言ってもいいだろう。それ故に、ワクチン開発はマラリア対策の上で最優先課題だった。
マラリアにはワクチンがないことに驚かれる方もいるだろうが、実は、今までに開発されてきた多くのワクチンは、病原体の中でもウイルスや細菌をターゲットとするものだった。マラリアが属する寄生虫に効果のあるワクチンは、一つも実用化されていないのだ。

そんな中、1980年代初頭、ニューヨーク大学のNussenzweig博士らがマラリアワクチンの動物実験に成功する。この当時、筆者は寄生虫の研究のため米国に留学していたが、周囲の研究者たちは「彼らの偉業に続け!」と、マラリアだけでなく様々な寄生虫をターゲットとするワクチン開発に挑戦していった。しかし、その後、何一つとして寄生虫に有効なワクチンは完成できなかったのである。

しかし、マラリアワクチンについては、その後も地道な挑戦が続けられた。1980年代後半、Nussenzweig博士らが開発した素材をもとに、GSKバイオロジカルズ社がヒト用のワクチン製造に成功する。それを米国内のボランティアに試験的に接種し、ヒトでの有効性が少しずつ明らかになってきた。そして、2000年代初頭に大きな変化が起きる。マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏が、この夢のワクチン開発に資金的な協力を申し出たのである。彼の援助によりアフリカの地で大規模な臨床治験が開始されることになった。
この治験の結果が冒頭で述べたシアトルでの報告だった。その詳細はNew England Journal of Medicineの11月17日号に掲載されている。このワクチンは乳幼児に3回接種すると、1年間にわたりマラリアの発病を56%、重症化のリスクを46%減らすことができる。もっと長期にわたる効果については現在集計中で、その結果は2014年までに明らかにされるそうだ。

現在公表されているデータからすれば、このワクチンの効果は100%ではない。また今のところ有効期間は1年間と短い。しかし、人類が史上初めて、寄生虫という病原体に有効なワクチンを完成させたことは間違いないだろう。さらにこのワクチンは21世紀の近未来に、マラリアという悪魔を地球上から駆逐するための「救世主」になるはずだ。

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