感染と予防Webにご参画いただく中野Drの日常を感染予防の視点よりコラムにてお届けします。
冬はもう間近まで来ています。今シーズン、あなたはインフルエンザワクチンを接種する予定ですか?
インフルエンザを予防する方法は、ワクチンだけではありません。手洗いやうがい、外出時のマスク着用など、インフルエンザに限らずどんな感染症に対しても行うべき一般的な予防行動を実行することは、もちろん大きな効果があります。でもそれらは、インフルエンザだけに狙いを絞ったものではありません。それに対して予防接種は、インフルエンザウイルスが悪さを出来ないように、私たち自身に免疫をつける方法です。対決する相手に特異的な、しかもウイルスが襲ってきても抵抗力ではね返すという積極戦法です。
「インフルエンザワクチンの予防効果は他のワクチンと比べて低い」、「せっかく接種したのに罹ってしまった」というお話もしばしば耳にします。本当にインフルエンザワクチンは、そんなに効果が無いのでしょうか?確かにこのワクチンに弱点があることは事実です。それについて説明します。
インフルエンザウイルスにはA型とB型があり、ワクチンにはこの両方のウイルスが含まれています。A型もB型もウイルスが変異しやすい、抗原性という免疫誘導に関係する性質が変化しやすいのです。私たちは、毎年そのシーズンに流行するウイルスのタイプを予想してワクチンをつくるので、含まれるウイルスの性質は毎年微妙に異なります。予想がうまく当たって流行ウイルスを蹴散らすことのできる免疫が付くこともあれば、流行ウイルスとはタイプが異なっていて十分な免疫が付かないこともあります。後者の場合は、インフルエンザに罹ってしまうこともあるでしょう。
インフルエンザワクチンは、特に小さいお子様では十分に免疫をつけることが出来ない可能性があります。特に1〜2歳くらいまでは、その傾向が強いと言われます。これに関連して、ひとつ興味深いお話もあります。実はアメリカやヨーロッパでは、日本とほぼ同質のワクチンを使っていますが、年齢が小さい子どもたちへの1回の接種量は日本より多いのです。年齢区分別の接種量や接種回数の規定を、日米を比較して表1に示します。アメリカでは、生後6ヶ月以上の子どもたちにはインフルエンザワクチンを接種することを推奨しており、日本より積極的に多くの対象に対してワクチンによる予防を呼びかけています。効果があるという証拠がなければ奨めはしないので、小さい子どもたちでも接種することのメリットがあるという自信があるのでしょう。日本も接種量を増やせばもっと効果が上がる、というように単純に決められる話ではないですが、こういった面での研究が必要です。
| 国 | 接種対象者の年齢 | 1回接種量 | 接種回数 |
|---|---|---|---|
| 日本 | 1歳未満 | 0.1ml | 2回 |
| 1歳以上6歳未満 | 0.2ml | 2回 | |
| 6歳以上13歳未満 | 0.3ml | 2回 | |
| 13歳以上 | 0.5ml | 1回または2回 | 米国 | 6カ月以上3歳未満 | 0.25ml | 1回または2回* |
| 3歳以上9歳未満 | 0.5ml | 1回または2回* | |
| 9歳以上 | 0.5ml | 1回 |
* 9歳未満小児であっても、過去に接種歴があれば1回の接種で可(米国)
日本でもアメリカでも、全国規模の研究が実施されています。これまでに報告された結果を、まとめて表2に示しました。これを見ておわかりのように、同じワクチンを接種した場合でも、最も有効率が高いのは働き盛りの世代です。もともと身体の免疫力がしっかりしているから、ワクチンも良く効くのかもしれません。
高齢者の方にとってインフルエンザは、時に生命にもかかわる重大な病気です。死亡を回避できる有効率は、日本とアメリカの結果はほぼ一致しており、高い値を示しています。是非とも接種を勧めたいものです。この研究結果に基づいて、わが国でも高齢者に対するインフルエンザワクチンの接種が、個人防衛の位置付けで法律に定められています。
子どもや高齢者の発症予防効果、すなわちワクチンを接種することによりインフルエンザに罹らずに済む割合は、残念ながらそんなに高くありません。しかし一点知っておいていただきたいことがあります。このような研究は通常冬のインフルエンザ流行シーズンに行われます。冬季は、発熱したり、咳や鼻水が出る他の感染症に最もよく罹る季節です。中でも、抵抗力の弱い子どもや高齢者が罹る率は、屈強な大人より高いでしょう。これらの研究では、例えば冬季に発熱した人全てをインフルエンザかそうでないのかを決定することは出来ないので、発熱患者はインフルエンザの可能性として扱って解析されています。つまり、他の病気でもインフルエンザとしてカウントされているかもしれず、真のインフルエンザ罹患者のみを対象としたワクチンの有効率はもっと高いのかもしれません。
| 対象者 | 国名 | 指標 | 有効率 |
|---|---|---|---|
| 高齢者 | 日本1) | 死亡回避 | 80% |
| 発症予防 | 34-55% | 高齢者 | 米国2) | 死亡回避 | 80% |
| 入院回避 | 50-60% | ||
| 発症予防 | 30-40% | 65歳未満健常成人 | 米国2) | 発症予防 | 70-90% | 小児 | 日本3) | 発症予防 | 30%前後 |
1)平成9-11年度厚生科学研究「インフルエンザワクチンの効果に関する研究」
2)CDC: Influenza. In; National Immunization Program Pink Book 9th ed ,2006.
3)平成12-14年度厚生科学研究「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究」
では、上で述べた有効率とは何を意味するかご存知ですか?簡単に説明しておきます。よく間違えることなのですが、発症予防のための「有効率70%」という表現は“100人の接種者のうち70人は発病しない”という意味ではなく、“ワクチンを接種せずに発病した人のうち70%は、接種をしていれば発病を回避できた”という意味です。図1を参照してください。

さあ、インフルエンザ流行シーズンを前にして、あなたはワクチンを接種しますか?ご家族はどうしますか?本コラムで述べた内容をご参考に、ご家族やかかりつけの先生とよくご相談ください。インフルエンザは、私たちが冬に悩まされる大きな負担であることは確実です。接種を選択するにしてもしないにしても、しっかりと予防を心がけたいものです。
インフルエンザの詳細についてはこちら → http://www.kansen-yobo.com/influenza/